夢原夫婦のヒミツ
「いってらっしゃい。今日も一日、頑張ってくださいね」

すると彼は優しい笑顔を私に向けた。

「ありがとう。愛実も仕事、頑張って」

そう言って行こうとする大和さん。

「あっ……!」

咄嗟に彼の服の裾を掴んでしまった。

だって今日こそ……今日こそは……!

「ん? どうかした?」

私が望んでいることに気づかない大和さんは、振り返り不思議そうに私を見ている。

どうやったら伝わるんだろう、気づいてくれるんだろう。

大和さん、私たち新婚夫婦ですよね? でしたらぜひ、“いってきますのキス”をしてほしいのですが……!

なんて自分からは恥ずかしくて言えるはずもなく……。

「あ……えっと、その……」

言葉を濁しながら、掴んでいた服の裾をそっと離した。

私の意気地なし。どうしていつも言えないかな。

「すみません、いってらっしゃい」

気を取り直して言うと、大和さんの大きな手が私の髪をクシャッと撫でた。

「いってきます」

せっかく綺麗にひとつにまとめたのに、彼のせいでぐちゃぐちゃ。
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