夢原夫婦のヒミツ
当時を思い出しているのか、懐かしむように話す大和さんの話に耳を傾けた。

「父さんがさ、日本酒の好きな人でよく言っていたんだ。俺が成人したら絶対飲もうって。その時はとびっきり美味しい酒を用意するからって。……さっき、叔父さんと飲んでいた時に思い出したよ」

胸を締めつけられる話になにも言えなくなる。

楽しみだったよね、大和さんも大和さんのお父さんも。その日がくるのを待ち望んでいたはず。

「二十歳の誕生日、結婚前に愛実にも行ってもらった父さんたちが眠る墓に向かったんだ。そこで初めて日本酒を飲んだんだけど、どれが美味しいのかわからなくてさ。おまけに悪酔いして帰れず、近くの宿に一泊して帰ったんだ」

そう言って笑う大和さん。

「さっき飲んだ日本酒は美味かった。……きっと父さんも、あんな美味い日本酒を俺と飲みたかったんだと思う」

「大和さん……」

うん、私もきっと、お義父さんは自分の大好きな日本酒を美味しく大和さんに飲んでほしかったんだと思う。
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