麻布十番の妖遊戯
「ちょっと待ってよ猫ちゃん」

 昭子が話を遮った。猫夜は昭子を見上げる。

 その無条件でかわいらしい顔に昭子は「はう」と声を漏らし、両の頬を餅のように膨らました。
 しかし、咳払いを一つ。気持ちを切り替える。

「さっきからワンちゃんのことを軽くディスってるじゃない。だったらワンちゃんのことには構わずにさっさとどこかへいなくなるのが普通じゃない? だって、その家十分に危ないじゃない。危険だわ。猫ちゃんだったら一人でもやっていけたと思うわ。でも猫ちゃんはなんでどこへも行かなかったの? 太郎、お酒」

「はいはい。酒ですね。で、昭子さんに付け足しますけど、ちょっと考えりゃ犬だって十分逃げられる時間も体力もあったただろうに」

 昭子に酒を注ぎながら太郎も持論を挟んだ。
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