麻布十番の妖遊戯
「太郎、この子達を睨んだってしょうがないじゃないか。あんたが動物を好きなのは知ってるけどねえ、そこまで感情が入るのって初めてじゃないかい? そんなにこの子たちが気になるのかい? ほら、猫ちゃんはまだしもワンちゃんがびびってるわよ。おやめなさいな」
昭子が太郎の楽しげな表情に気づき、わざとらしく挑発し、酒の入ったグラスをゆっくり口に運ぶ。
「どっちにしろ今日でおまえらの恨みが晴らせるんだから、思い切りやってやれよ」
侍の言葉に猫夜も犬飼も大きく頷き合う。
「どれ、じゃ、ちょっとばかり早い時間だが俺の気がおさまらねえ。そろそろその男のところに出向いてみようとしようじゃねえか」
太郎が目をギラつかせてにやつく。
昭子のように表には出さないが、太郎も昭子に負けず劣らず動物が大好きなのだ。
「まったくこれだよ。太郎、お前がただ早く食いたいだけだろうが」
「なんの話だかさっぱりわかりゃあしませんねえ、昭子さんも飲みすぎて酔っ払ってるんじゃないんですか」
太郎と昭子が悪い笑みを浮かべながら肩を揺らしている。
猫夜の仕草を見ても太郎は顔色一つ変えていなかったから皆には感情がわからないが、実は、足の指をもじもじさせて猫夜を触りたい衝動を必死に抑えていたのだ。
そんなこととはつゆ知らず。猫夜と犬飼は少しばかり太郎に恐怖を感じていた。