麻布十番の妖遊戯
 まさか、嘘だろ。真っ暗になった部屋の中で俺は恐怖に支配された。

 そこから地獄が始まった。部屋はクソ暑い。何も見えない。水も食べ物もない。インターホンが鳴ったときには大声を出したが音漏れ防止をつけたこの部屋から声がもれることはない。己を悔やんだ。

 気が狂いそうだった。
 真っ直ぐに伸ばせない体。窮屈で死にそうだった。立ち上がりたい。両手を思い切り伸ばしたい。しかし、それは叶わない。
 檻から腕を伸ばし、頭が出ないかと無理やり檻の間に頭を突っ込んでみたりもした。檻はまったくびくともしなかった。己が建てつけた檻を呪った。

 過去にここに閉じ込めた動物たちが発狂して狂っていく様を、それを見て焼いた肉を食らい、その肉の臭いを嗅いで、食い物欲しさに涎を垂れ流し白目を剥いて今までに聞いたことのない叫び声を上げる動物を見ていた俺なのに、まさか、この俺が同じ目にあうなんて。しかもあんなクソ犬にやられるなんて。

「殺したい」

 心からそう思ったあの気持ちは今までに味わったことがなかった。
 
 そんな気持ちも長くは続かず、しばらく経つと幻覚をみるようになり、幻聴も聞こえ始め、終いには朦朧とする意識の中、今までに殺した動物たちが土から這い出てきて俺に食らいついてきた。
体から払いのけようと手足をばたつかせたがその力は強すぎる。

 ついぞ俺は……
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