麻布十番の妖遊戯
 登は己の体に鳥肌が立ち、恐怖を感じているのを隠そうと、身体中に力を入れて硬くした。

「おやおや、こいつったらビビってるよ。今にも漏らしそうな顔してるよ。みてごらん、太郎のことを見て震えてるじゃないか。それを強がったってあたしらにはお見通しさ。バカだねえ」

 昭子はそんな登を指さし、鼻で笑って挑発するように豪快に笑っている。

 太郎も侍も登の様子を見て、けなすような、馬鹿にするような、痛いものを見るような目を向け、あからさまに嫌な空気を作った。

「お、おまえらは誰なんだよ。関係ねえ奴は引っ込んでろよ」

 強がってみるがその声は震えまくっていた。声に力が入っていない。

 その態度にまたしても昭子が豪快に笑う。侍もつられて笑い始め、太郎はにんまりと唇を引いたが、目はまったく笑っていなかった。

「檻の中はどんな気分だったのかしら? 楽しかったかい? どんなんだったか教えとくれよ」

「昭子さん、それはそれは楽しかったに違いないでしょう。だって檻の中に入れられる経験なんてそんなにあるわけじゃありませんよ。言ってみりゃあ貴重ですよ」

「死に行く恐怖を感じながら過ごす毎日か。考えるだけで震えるわな」

 太郎と侍が目を背けたくなるような笑みを登に向ける。

「楽しいからこそ、どうぞとばかりにあの檻の中に犬、猫、鳥、小動物を閉じ込めて死に追いやったんだから、最期は自分も入らないとねえ」

 昭子が突っ立ったままの登の周りを距離を保ちながら回り、頭のてっぺんからつま先まで眺め回す。

 昭子が歩くだけでその場が凍るように冷たくなる。
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