麻布十番の妖遊戯
 太郎がすいと登の前に出る。

「何勘違いしてんだよ。誰もおまえなんか助けるわけねえだろうが。目ん玉ひんむいてよく見ろ。見えねえなら早速食ってやるぜ」
 登の体がびくりと跳ね、ひゅっと息を飲んだ。

「いいかい、おまえは生前いろんなもんを殺しすぎた。それも快楽のためにやっただろう。
 犬、猫、鳥、亀、うさぎ、ハムスター、数えきれないな。そんなことをしたのにお前だけ綺麗に助かるとでも思ってんのか? 

 そんなわけないだろうが。いいか、おまえはこれから殺されるんだよ。まずこの二匹に。
 次におまえが殺してきた動物たち全てに、おまえがその動物らにしたことをそっくりそのままやられるんだよ。

 それから未来永劫、闇の中でただひたすら一人で死ぬのを繰り返す。この地球がなくなってみんないなくなってもおまえは一人で闇の中に置き去りにされる。誰もいない。あるのは、殺され続ける記憶、闇の中で感じる孤独と恐怖と死の痛さの繰り返しだ。

 殺される時にだけ、おまえが殺した動物たちとおまえのせいで不幸になって死んでいった一族が出てくる。

 おっと、また勘違いしないように先に言っとくぜ。みんなおまえを殺ろしに来るんだからな。せいぜい楽しんできな」

 にいっと唇を左右に引き、目を大きく開いた太郎の黒目は昼間の猫のように細く伸びていた。
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