麻布十番の妖遊戯
 猫夜と犬飼の後ろには既に影のうちに消えている三人がいる。
 このやりとりの結末をワクワクしながら待っているのだ。

「この男は死んでからもどうしようもない。やはりあたしが殺してやりたいねえ」
「ダメですよ昭子さん。それはもうしない約束をしましたでしょ」

 と、太郎と昭子が、自分たちの声が影から聞こえるのなぞお構いなしにぺちゃくちゃやっている。侍はそんな二人は無視し、二匹と登の姿を見続け腕組みをしながら影の内で足を肩幅に広げて立っている。

「おまえが我らにしたことをそのまま返してやる。おまえだけじゃなく、おまえの家族、親戚諸々、おまえの血が繋がっているもの、それに関わるものら七代に渡り呪ってやる。まずはおまえからだ」

 猫夜が飛びかかった。
 登は飛びかかってきた猫夜を咄嗟に足蹴にした。猫夜は地に叩きつけられるがすぐに起きる。登が猫夜のほうに気を取られているうちに犬飼が登の腹に体当たりした。

 登は己の胸に突進してきた犬の衝撃に耐えきれず、背中ごと床に叩きつけられた。
 あろうことか痛みを感じるのだ。死んでいるのに痛みを感じる。

 もしかしたらまだ死んでいないのではないか。そんな希望が見えてきて、横たわる自分の体に視線を向けるが、まったくピクリともしない。
 猫夜がその隙に己の鋭く尖った爪を登の首にぶっさした。そのまま横に引く。
 その瞬間、真っ赤な血が飛沫をあげた。
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