麻布十番の妖遊戯
 大吉も最初は軽い遊びのつもりであったが、己でも気づかぬうちに終ぞ闇の中の闇の賭場にまで手を出し繰り出すようになっていった。

 そんな大吉を見兼ねた両親がある日大吉を自分たちの前に呼び出し、

「お前は麻布の叔父さんのところに奉公に出」

 ぴしゃりと言い放った。

 大吉は口をあんぐりと開けることしかできなかった。
 今の今まで奉公の話なんて出なかった。
 自分は長男坊だ。いずれは己がこの家を継ぐ。

 この店にいるのが当たり前だとそう思っていた。
 行かせるなら次男坊の中吉のほうではないか。

 大吉が反論をする間も無く話は締め括られ、話はとんとん拍子に大吉のいないところで進められた。
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