麻布十番の妖遊戯
 猫夜の大きくなった目を見て昭子が触りたくてたまらない表情になるが、また触ろうとして怒られて嫌われたくないので、鼻の奥で荒く呼吸をしてその欲求をおさえていた。

 手をもじもじさせながら、触りたい衝動を堪え忍ぶように体が揺れている。
 太郎もまったく同じであった。
 そんな二人を横目に侍は眉間にしわをこしらえ目を細めて首を左右に振っていた。

 犬飼は続けた。

 私がまだ子犬の頃の話です。
 私は捨て犬でした。
 猫夜を拾ったあの公園で私は捨てられたんです。猫夜がいた場所と同じ場所でした。

 同じく冬の寒さに凍えて、死を待つのみとなっていたのを巨大な猫が助けてくれたんです。

 今となっては自分が小さかっただけだったんだと思いますが、そのときは本当に驚いて体が固まったのを覚えてますよ。食われるって思いましたから。

 何日も食べていない私は体力も無く、抵抗する力もありませんでした。もうダメだと思いました。この猫に食われるんだと思うと恐怖で涙がでました。
 しかしその猫は私を食うどころか、むしろ反対に助けてくれたんです。
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