麻布十番の妖遊戯
その後、兄弟猫も徐々に散り散りになり、私は一人ぼっちに戻り、あの公園に戻りました。
でも、猫みたいに上手に獲物を捕らえられない私はゴミを漁る毎日でした。
そんな時、あの男に会ったんです。猫夜と同じように最初は優しくされ、家に連れて行ってくれて、回復するまで大切に育てられました。病院にも連れて行ってくれて治療もしてくれた。やさしく撫でてもくれた。だから、酷い目にあってももしかしららまた優しくしてくれるんじゃないかっていう期待があったんです。
だから逃げなかった。
「しかし、結局最後に見たあの男の目は、私を殺すのを楽しみにしている冷たい目をしていました。そこに愛情は見出せなかったんです。猫夜には悪いことをしたと思っています。猫の中に好奇心が住み着いているのを私はよく知っていたのに拾ってきてしまったんですから」
本当に申し訳なさそうに猫夜に頭を下げた。
「何をいうか犬飼。あたしはあたしの意思であの家に行ったんだ。おまえに同情されるいわれはないよ」
ぴしゃりと言い退けた猫夜であったが、その小さい手から伸びる爪はノートに深く入り込んでいる。泣きそうになるのを堪えていた。そんな姿を犬飼には見られたくないのだ。猫夜の小さなプライドだった。
犬飼がありがとうと言うように優しい目を猫夜に向け、「そのノート、私にも見せておくれ」とノートに目をやり、手を伸ばした。猫夜は食い込ませている爪のあとを見られると思って一瞬体が強張る。犬飼はまだ猫夜の強がっている気持ちに気づいていない。しかし、そういう気持ちの部分だけは汲み取るのが上手な犬飼だ。きっと猫夜の気持ちもすぐに感じ取るだろう。
「いい話だわあ! 感動した。猫ちゃん、ワンちゃんの前にあたしにそのノートを触らせて。あなたを触れないならかわりにそのフワフワのノートでいいから」
昭子が猫夜の気持ちを察し、涙が浮かんでいる己の目元をぐぅと拭うと、腰を浮かせてノートに素早く手を伸ばす。
でも、猫みたいに上手に獲物を捕らえられない私はゴミを漁る毎日でした。
そんな時、あの男に会ったんです。猫夜と同じように最初は優しくされ、家に連れて行ってくれて、回復するまで大切に育てられました。病院にも連れて行ってくれて治療もしてくれた。やさしく撫でてもくれた。だから、酷い目にあってももしかしららまた優しくしてくれるんじゃないかっていう期待があったんです。
だから逃げなかった。
「しかし、結局最後に見たあの男の目は、私を殺すのを楽しみにしている冷たい目をしていました。そこに愛情は見出せなかったんです。猫夜には悪いことをしたと思っています。猫の中に好奇心が住み着いているのを私はよく知っていたのに拾ってきてしまったんですから」
本当に申し訳なさそうに猫夜に頭を下げた。
「何をいうか犬飼。あたしはあたしの意思であの家に行ったんだ。おまえに同情されるいわれはないよ」
ぴしゃりと言い退けた猫夜であったが、その小さい手から伸びる爪はノートに深く入り込んでいる。泣きそうになるのを堪えていた。そんな姿を犬飼には見られたくないのだ。猫夜の小さなプライドだった。
犬飼がありがとうと言うように優しい目を猫夜に向け、「そのノート、私にも見せておくれ」とノートに目をやり、手を伸ばした。猫夜は食い込ませている爪のあとを見られると思って一瞬体が強張る。犬飼はまだ猫夜の強がっている気持ちに気づいていない。しかし、そういう気持ちの部分だけは汲み取るのが上手な犬飼だ。きっと猫夜の気持ちもすぐに感じ取るだろう。
「いい話だわあ! 感動した。猫ちゃん、ワンちゃんの前にあたしにそのノートを触らせて。あなたを触れないならかわりにそのフワフワのノートでいいから」
昭子が猫夜の気持ちを察し、涙が浮かんでいる己の目元をぐぅと拭うと、腰を浮かせてノートに素早く手を伸ばす。