麻布十番の妖遊戯
 たまこは侍のことを(またしても肝心なところは「忘れた」と一点張り)侍自身から聞くと、一字一句書き漏らさずにノートに記録した。そして、

「わかりました。結局、侍さんは自業自得ってやつなんですね」

 だって、自分の欲に従って行動した結果、行き着くところまで行き着いて変な道に入り込んでしまったんだから。
 侍さんはお金持ちだったんですから、お金欲しさに邪な人がたんまり寄ってきたでしょう? 

 でも、侍さんは根っからのお坊ちゃん育ちで人を見る目がない。
 だから良い人も悪い人も区別がつかなかったってことですよね。

 と、身も蓋もないことをさらりと言って抜かす。

「これだから素人はおっかねえんだよ。何を言い始めるかわからねえ。勝手に決めつけられても困るってんだよ」

 侍が面白くないとばかりにそっぽを向いた。

「口うるさく注意してくれる人はいなかったんですか?」

「おまえまだ言うのかよ。まったくめんどくせえ。クソ。言わなきゃよかったぜ。まあ、そうだな、いたにはいたが、あるときを境にぱたりと現れなくなったんだよ」

 なんでかねえ。と侍が解せぬとばかりに首を傾げる。
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