麻布十番の妖遊戯
 昭子がまたしても遠慮なく不躾な目をたまこに向ける。怒っているような、寂しいような、哀れんでいるような、なんとも言えない表情だった。

 たまこはそんな昭子に「昭子さん、たぶん気づいてないと思いますけどね、目が哀れになってますよ」とすかさず突っ込む。昭子が真っ白い目を数度パチパチさせた。

「たまこちゃん、いつもだったら俺らはたまこちゃんがどうやって死んだのか聞くところなんだけど、小さいあんたにそれを言わせるのは酷だし、とは言っても今はもう大分大きいけどな。それにおまえさんはきっと全部は覚えていないだろう?」

 太郎の言葉にたまこは素直に頷いた。
 太郎もたまこに頷き返し、

「だから、『そのとき』が来るまで、なんで妖怪のことを知りたいと思ったのか、そこを話してもらってもいいかい」

 太郎がたまこの前にグラスに入ったオレンジジュースを置いた。
 それを見てたまこは、ああ、本当にこのときが来てしまった。これで話し終えて、太郎さんが出してくれたジュースを飲んだら私は自分が殺された場所へ戻される。そして最後に行くところへ行って、ここから消えていくんだ。と思うと寂しさで心が痛くなった。
 死んでからも心が痛いなんて、死んで初めてわかることもあるもんだと一人関心し、そして、三人とゆっくり目を合わせ、いつも通りの三人に安心し、

「なんで私が妖怪に興味を持ったかなんですけど、それは、私が死んだときのことを話さないとならないんです。あまり覚えてないんですけど、でも、私も思い出すためにそこから話してもいいですか」

「もちろんだよ。たまこちゃんが話せるならぜひ話しておくれ」

 太郎が大きく頷いた。
 
 オレンジジュースを一口飲んで口内と喉を潤すと、たまこは最後の時間を楽しむようにゆっくりと話し出した。
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