麻布十番の妖遊戯
男の言うままに山道を歩かされ、ここが地元なのにどこを歩いているのかわからなくなってきた頃でした。
山道に入って奥までずっと上り、くねくね曲がった道を更に奥まで進むと山の中に一軒の民家あったんです。結構大きな家で、黒くて不気味で更に怖くなりました。
男は、ここには俺が一人で住んでいると言っていました。これからは私が一緒に住むことになるとも。
でも、私はほんの十才だか十一才だかでした。それなのに両親と離れて一緒に住むなんて、考えただけで恐ろしくて不安で泣いていたのを覚えています。
そんなとき、視界が歪んだんです。
ガンという衝撃が頭に響き、目の前に星が浮かび、そしてそのまま倒れました。不思議ですよね何かで殴られたときって、多少は意識が残っていてすぐにはわからないものなんです。
次に意識が戻ったときには真っ暗な部屋の中にいたんです。
「こうやって話をしていくと、忘れていたことを思い出せるんですね。それに、まだ思い出していない昔の新しいことも思い出せそうな気がします」
たまこが一息ついた。
オレンジジュースの入っているグラスが汗をかいている。かまわず半分ほど飲み干し、「そこで妖怪に会ったんです」ちゃんと忘れていませんよとばかりに付け加えた。