麻布十番の妖遊戯
「その部屋の中に妖怪がいたっていうのかい? そうかい、妖怪がねえ。ふふ」
「暗闇に潜む妖怪か。もしくはただその辺を通りかかっただけか。それにしてもどいつだ? 本当に妖怪だったのかい? だとしたらどいつだろうねえ」
昭子と太郎が向かい合って、どの妖怪だかを探っている。
侍はいつのまにかメロンソーダを持ってきていつものように最後の一滴まで啜っていた。
「今から言うってえのに本当にこいつらはああだこうだ言うのが好きなんだな」とたまこに同意を求めた。たまこも二人のやりとりを見ながら頷いた。
「何言ってんだい侍。もしそこに妖怪がいたならばなぜたまこちゃんを助けなかったのかって話になるじゃないか」
「そうだ。どこのどいつだかわからなきゃ俺らだってなんかしようにもしようがねえ」
昭子と太郎が侍に食ってかかる。ひっかかるのはどういうわけか二人の顔に笑みが浮かんでいることだ。侍は小さい目を更に細め、こいつらななんか隠してる。と納得するように数度首を縦に振り、唇を薄く引いた。そして。
「まったくこれだからこの世に長くいすぎる妖怪はダメなんだよ」
と二人に聞こえるようにわざと言う。
侍の言葉に二人は同時に侍の方を睨み、舌打ちを一つ。
その顔は本気で怒っているようにも見えた。
そんな二人の態度にビビり、体を小さくして一歩後ずさった侍は、困った顔をしているたまこと目が合った。
すかさずたまこの後ろに隠れる。安全地帯に入ったところで二人に対し、