麻布十番の妖遊戯
 侍がたまこの方に身体を向け、仕方無しに口を開きかけたのと同時に、

「お。侍さんの話を聞きたいところだけどそろそろ時間になったみたいだぜい。続きはあとにしな」

 太郎が割り込み話を遮った。
 巨大な積乱雲が太陽を隠すように部屋がすうっと暗く冷たくなる。

 たまこも太郎に、

「いいところだったのに。じゃ、後でちゃんと教えてくださいね。というか、ちゃんと思い出してくださいね」
 
 と言うと、本当に残念そうにノートを閉じて侍の方にちらりと視線をやる。

「バレてたか」

 侍は己が今のところ思い出せないだけだということがたまこにバレていることが知れると、頭をかきつつ己の席に座り直して背筋を一つ伸ばす。

 昭子も気だるそうに身体をくねらせ、背筋を正した。
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