麻布十番の妖遊戯
「だってそうだろう。妖怪は人の生き方に口出し出来ない、しちゃいけないって教えてくれたのはおまえさんがたじゃあないか」

 人のやることには例えそれが破滅の方向に向いていても手を出しちゃいけないって決まりがあるって言ったよな昭子さん。と今にも侍を氷漬けにしようと口元に手をやって氷の息を吹いている昭子に向けて人差し指をぶんぶん振る。

 侍のくせにその意が的を射ていることにムカついた昭子は、侍をどうバラしてやろうかと考えていた。
 が、ちょっとそれを保留し、思わず太郎の様子をうかがってみた。
 同じようにムカついた顔をしている太郎にほっとしたのか、

「そうさね、そんなもんわかってるさ。だから、どの妖怪がそんなバカな真似をしようとしたのか気になったんじゃないか。なあ、そうだろ太郎」

 と取ってつけたように太郎に同意を求める。

「そりゃもちろんですよ」

 太郎も昭子に話を合わせて薄ら怖い笑みを作る。そして二人は侍がまだ何も気づいていないことに対し、呆れた顔を見せ合ってケスケスと笑い声を漏らした。

「おっかねえ笑い声だな昭子さん、あんた今本気で俺のことどうにかしようと考えてたろ。あの目つきはそんな感じだった。なあ、そうだろ? やめてくれよそういうの。俺、結構怖がりなんだから」

 昭子は、「ふん、生意気な真似するからだよ」と一蹴する。

 侍もふんと鼻を鳴らすと、「で、そこでどんな妖怪に会ったんだい?」とようやく脱線させた話をまともな路線に戻した。
 たまこは一つ頷き、続ける。
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