麻布十番の妖遊戯
「それは大きくて黒くて真っ赤に燃えていて、例えるならまるで巨大な車みたいでした」

 人差し指と中指を両のこめかみに当てて強く押す。うーんと唸り話を続けた。

 私は暗い部屋の中にいました。辺り一面真っ暗だったので最初は部屋だと思ったんです。
 ですが、少し埃っぽいにおいと土っぽいにおいから、もしかしたらここは外かもしれないって思ったりもしました。とにかく、どこにいるのかわからなかったんです。

 その時の私は両手両脚を縛られていたんですが、脚は前後左右に激しく揺らしたり擦ったりしたら、なぜかすんなりとすぐに紐をすり抜けたんです。手の方はぜんぜんダメでした。

 そうっと立ち上がって、外に耳をそばだてました。もしかしたら人がいるかもしれない。そう思うと恐怖で心臓が張り裂けそうでした。
 外は、そうですね、たぶん夜でした。遅い時間だったと思います。

 辺りはしんと静まり返っていて静かでしたが、外で鳴く虫の声が夜のものでした。
 田舎に住んでいる人は虫の声で時間かわかるんですよ。だから、今が夜遅い時間だろうって推測することができたんです。
 助けを呼ぶのに声を上げたらあいつが来ると思って怖くて声は出せなかったんですが、脚は動くので小屋の中、四方八方を確認するため歩いてみました。

 小屋のどの位置かはわからなかったんですけど、大きな箱のような物が一つ置いてあるきりで、あとは何もありませんでした。

 次に、背を壁につけてドアが無いか探しました。
 手を後ろに縛られているので背を壁につけて上下左右に動きながらどこかに鍵がないか探しました。

 最初は何もなかったんです。
 というかみつけられなかったんです。でも、諦めずに何周かしたとき、金具のようなものに触れました。
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