麻布十番の妖遊戯
 背伸びをしないと触れない位置にあったんです。
 私は何度も爪先立ちをして手を近づけました。
 そのうち指先に丸いものが当たり、それが鍵であることに気付きました。

 うちの物置もこのタイプの鍵でしたので、すぐに気づきました。
 横にスライドさせて開けて玉の部分を下げる昔ながらのあの鍵です。

 今思えば、なんで内側に鍵があったのか、不思議に思わなければならないところでしたが、当時の私はそこまで頭が回りませんでした。
 なので、玉を上下左右に動かしてどこかにひっかからないか試しました。何度か試していると鍵がスライドし、ドアが軽くなったんです。

 開いた。

 そう確信し、私はゆっくりと慎重にドアを開けました。
 黄色い月明かりが誘うようにすうっと細く中に入り、うっすらと中を照らしました。でも私は怖くて中を見ることはできませんでした。
 新しく澄んだ空気も一緒に入ってきたので、思わず肺いっぱいに吸い込みました。

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