麻布十番の妖遊戯
 私とあの女性が話してから数日程度しか経っていない。記憶がなくなっていたし時計もなく、真っ暗で時間はわかりませんが、でも、そんな少ない日にちで骨になるだろうかと、冷静に考えている自分もいました。

 男は私を土の上に腹這いにさせ、見えるようにノコギリを目の前に出しました。
 刃には血の跡がこびりついていました。まだ新しい血もありました。涙がとめどなく流れました。
 恐怖でした。生きたまま切られるのかと思うと、止めようにも身体の震えは止められませんでした。

 男は畑を掘り返しました。私はまだ切られないことで更に恐怖で呼吸ができなくなりました。
 掘り返した畑の中から出てきたのは、土色に変わった長い物で、男は土を払うと気持ちの悪い笑みで私にこう言いました。

「おまえの右足だ」

 私はこの信じられない状況に発狂しました。
 自分の悲鳴で鼓膜が破れればいい、喉が切れればいい、頭が張り裂ければいい。ここから消えたい。もういい。もうやめて。もう殺してくれ。そう思いました。

 男は私の右足を私の前に投げつけました。そしてノコギリを持ち上げたんです。

「それが私の最期の記憶です」

 たまこは言い終えると、心なしかスッキリした顔をした。笑顔さえ見える。

 そうだ、そういう人生だった。と最期まで思い出せたという気持ちがたまこをすっきりさせたのかもしれない。
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