麻布十番の妖遊戯
「たまちゃんは畑で自分の足と半分骨になった誰か別の人の頭のほかに、どこかで瑞香さんの一部を見てるはずなのよ。たぶん。思い出せないだけで見てるのよ。だから、彼女が見えたの。でも瑞香さんはあんたのことをぜんぜん知らないのよ。だから見えない」

 昭子はどこかで瑞香の一部を見ていると言った。
 確かにあの畑には切断された人間の体が埋まっていた。たまこがその一部を見ていたとしても、おかしくない話であった。

「彼女はあの小屋の中の様子が知りたくて中に入れないか、どこかに隙間がないか探してたの。たまちゃんが助けを呼ばなくても、遅かれ早かれ、彼女はたまちゃんを見つけてたわ。で、彼女によって助け出されてたかもね。でも、それもあの男は見越してたのよ。どうせ二人とも殺すつもりだったんだから。わかった?」 

 昭子は優しく微笑みかけ、涙をこぼしているまこの目元を拭ってやり、鼻水も拭いてやる。

 昭子の言葉を真剣に聞きながらたまこは顎を下に何度も引き、うんうんと鼻返事をする。

心のどこかで、自分のせいじゃないと思いたかったのだ。
 そう思ってしまう自分自身にどうしようもなくやるせない気持ちにもなっていた。
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