麻布十番の妖遊戯
「たまこちゃんが見たっていう黒い靄だけどね」
太郎が薄気味悪い笑みを浮かべて一人でニヤついている。
「おや、あんた、言うつもりかい?」
昭子もそんな太郎の態度に、目を細め口を両に裂けるように広げた。
たまこは真っ赤な目をして無防備にきょとんとした顔を太郎に向けた。
「その靄、どんな形だった? ようく思い出してみな」
楽しんでいる太郎に昭子が、なんだい太郎、わかってるなら早くお言いよ。とまたしてもふざけて楽しみ始めた。
「黒い靄は、そうだ、見ているうちに人の形になったり黒い塊になったりしました。時折体が炎に包まれてたし、時折黒い靄で体が覆われてたし、最後には人みたいな形になって歩いてたと思います。そう、足もあった。だから幽霊じゃないって思って。これから死ぬってときにも人の頭は正気の部分というか、冷静な部分があるんですね。あれは何? なんなのか知りたいって思って。幽霊じゃないってことは、」
「ああ、なるほど。そういうことかい。たまちゃんはその正体が知りたかったのか。それで、幽霊ってもんはああいうものじゃあない。幽霊が火を纏うなんて聞いたことがない。そう思った。だから行き着くところは妖怪になった。そんなところかい?」
昭子のことばにたまこは大きく頷いた。
太郎が薄気味悪い笑みを浮かべて一人でニヤついている。
「おや、あんた、言うつもりかい?」
昭子もそんな太郎の態度に、目を細め口を両に裂けるように広げた。
たまこは真っ赤な目をして無防備にきょとんとした顔を太郎に向けた。
「その靄、どんな形だった? ようく思い出してみな」
楽しんでいる太郎に昭子が、なんだい太郎、わかってるなら早くお言いよ。とまたしてもふざけて楽しみ始めた。
「黒い靄は、そうだ、見ているうちに人の形になったり黒い塊になったりしました。時折体が炎に包まれてたし、時折黒い靄で体が覆われてたし、最後には人みたいな形になって歩いてたと思います。そう、足もあった。だから幽霊じゃないって思って。これから死ぬってときにも人の頭は正気の部分というか、冷静な部分があるんですね。あれは何? なんなのか知りたいって思って。幽霊じゃないってことは、」
「ああ、なるほど。そういうことかい。たまちゃんはその正体が知りたかったのか。それで、幽霊ってもんはああいうものじゃあない。幽霊が火を纏うなんて聞いたことがない。そう思った。だから行き着くところは妖怪になった。そんなところかい?」
昭子のことばにたまこは大きく頷いた。