麻布十番の妖遊戯

「まあ、じゃあその答えは今からあの男に会って確認しにいくとしようぜ」

 ニヤッと意味ありげに笑った太郎は、昭子と侍にも笑みを見せる。

「悪い奴だねえ太郎は」

「いやいや昭子さんには負けますよ」

「もういいからそういうの。俺とたまちゃんだけわかってねえじゃねえか」

 侍が二人の掛け合いを遮った。昭子と太郎は何かを既にわかっている。そしてそれを楽しんでいる。侍とたまこだけが蚊帳の外なのだ。

「たまちゃん、あんた、面白いものに会えるかもしれないよ」

 昭子が、それはもう面白いというように恐ろしい笑みを貼り付けた。

「やめろよ昭子さんその顔。たまちゃんが怖がってるじゃねえか」

 侍の後ろにこっそり隠れたたまこは侍の着物に顔を隠している。

 あらやだ、あたしとしたことが、いやだようまったく。と、袖で口元を隠してしおらしく笑ってみせたが、もう遅い。

「遅いってんだよ、なあ」

 侍がたまこの頭をやさしく撫でた。
 太郎はくくくっと喉の奥で笑ってそんなやりとりを眺めていた。
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