麻布十番の妖遊戯
 そんな三人に司が「おまえらのことは前にも見た気がする。くそ、思い出せない。でも見てる。嫌な奴だったはずだ」と化け物でも見るような目には恐怖以外何も浮かんでいない。

「いいねえ、その目。いつ見てもぞくぞくする」

 昭子が血のように真っ赤で長い舌で口の周りを一周ベロリと舐めて、氷柱のような鋭く太い牙を見せる。
 うひゅっと短く息を吸い込む音は司の喉の奥から出たものだ。

「その声、俺が首を切られたときに出た音と同じだぜ」

 侍が己の首に真一文字に親指をするりと沿わす。みるみるうちに真っ赤な鮮血が首筋から垂れ落ちた。

 はぁぁぁと声にならない音を立てた司は涙も鼻水も冷汗も一混ぜにした顔を梅干しのように塩っぱくしかめていた。
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