麻布十番の妖遊戯
「生前、悪事を重ねたお前みたいなやつが、俺の好物なんだよ」
太郎の全身はどこぞの鬼のように巨大化し、それを包むように炎が体を覆っていた。綺麗な金髪の毛先が赤黒く燃えている。
恐怖に震えて歯をガチガチ鳴らしている司を目にして、太郎の顔に狂気の笑みが上がる。
その目は顔半分まで埋まるほど大きく見開かれ、真っ黒だった。
口は耳まで裂け、サメのように鋭い牙が上下にたっぷり見え隠れする。
両手の指先には力を入れなくてもなんなく切り落とせる性能のいいナイフのように鋭い爪。
食蟻獣のような細長い舌でしきりに己の口の周りや歯列を執拗に舐め回す。涎がツツと垂れた。
太郎が一歩足を前に、司の元へ歩む。生肉が床に落とされたようなグシャリという音が太郎が歩く度にする。
両の指先がピアノを弾くように滑らかに動き、鋭い爪が空気を切り裂く音を立て、その度に白い光が弧を描く。
「やれ困ったもんだ。もう太郎が元の姿に戻っちまったよ。あたしらの楽しみはなくなったね侍」
昭子が楽しそうに肩を揺らすと、司を無表情で見ているたまこの背をぽんと叩く。
はっと意識を戻したたまこは昭子の方を向き、目を大きく見開いた。
「昭子さん、私」
「いいんだよそれで。太郎を見てみな。あんたが望んでいたものが見れるから。面白いもんが見れると言ったろ」
たまこの両肩にてを置き、腰をかがめて顔を近づける。「お前が望んでたもんだよ」と、鼻の奥で笑った。