麻布十番の妖遊戯
 生憎、太郎は生きてる人間に興味がない。あいつは死体を食らうからね。

 それも、悪事をはたらいてどす黒く変色した死体を好むんだ。
 あいつは『火車』っていう妖怪さ。

 たまちゃんが見たってときはきっと近くでどこぞの悪いやつが死んだんじゃないかい。葬式があったはずさ。
 生きてる人間には太郎は見えないけど、半分死にかけてくたばりかけてたたまちゃんだからこそ見えたのかもね。

 昭子は気を使う喋り方を知らないのだ。
 たまこは口の中で「火車」と呟き、己の頭に『太郎さんは火車という妖怪だった』と落とし込む。

「ところで、太郎もってどういうことだい? 侍は妖怪じゃなくて昔はただのどうしようもない人の霊だってわかったじゃないか」

 昭子が侍をディスり、からかうように言う。

「だって昭子さんは妖怪だってわかってましたから。昭子さんの周りには冷たさが漂ってるし、隣にいるといつも寒かったし、それに、すごく綺麗だったから」

 昭子を真正面に、純真無垢な顔で言ってのけた。

「それで?」

「昭子さんは雪女」

 昭子がそれを聞いて嬉しさに喉を鳴らす猫のような顔になる。
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