麻布十番の妖遊戯
「やっぱりたまちゃんはお利口な子だね。感が鋭い、いい子だ。あたしらの自慢だよ」

 たまこの頭を猫の頭を撫でるように撫で、優しく抱きしめた。
 眉も目も垂れて名残惜しそうな顔をしたが、たまこを己から離すときには、いつもの冷たい笑みを浮かべていた。

「さ、そろそろお別れだ。瑞香さんに着いてきゃ、大丈夫だよ」

 たまこの顔を冷たく白い手で包む。それを見て侍がぶるっと震え「ああ、さみいさみい」と聞こえないように呟く。
 司が悲鳴をあげる。太郎のすぐ後ろには瑞香がべたりと張り付いている。
 自分もそこへ行かないと。そうたまこは直感した。

 しかし、数歩踏み出したところで躊躇した。
 昭子の方を向く。そこには侍の姿もある。
 二人とも優しい笑みを浮かべていた。

 これでお別れだ。もうこの三人とも会えなくなる。二度と、会えない。
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