麻布十番の妖遊戯

 太郎さんの作ったワンパターンなご飯をみんなで食べられなくなるし、笑って話すこともできなくなる。
 昭子さんと侍さんの言い合いや、いつも言い負けてる侍さんが昭子さんにやる小さい仕返しも、それを見抜かれて倍返しにされるところも、みんなの昔話やほかの妖怪のことだって聞けなくなる。楽しかったことが終わっちゃう。
 寂しい。でも。

 たまこは、太郎、昭子、侍を交互にしっかりと、忘れないように細かいところまでじっくりと見て、瞼の裏に、頭に、心に記憶する。
 きゅっと目をつぶり唾を飲む。悲しさを堪える。
 眉尻を落とす。下を向く。手を胸の前できつく握る。

「よかったねたまちゃん、さ、もういいんだよ。太郎と瑞香さんに着いてお行き。あんたが行くべきところにあいつらがこの先は案内してくれるさ」

 昭子があっちへお行きと手の甲を二度振る。

「やっとこのときが来たんだ。おまえの番が来たんだ。気が済むまでいたぶったれや」

 侍もメロンソーダを乾杯というように宙に掲げていちいち格好つける。

 それがぜんぜん格好よくなくておもわず笑ってしまったたまこに、「こんなときに笑うとか失礼なやつだなおまえは」と侍が笑いながら怒っている。
 たまこが大きく息を吸い込み、大きく頷く。

「昭子さん、侍さん、ありがとうございました。侍さん、私を拾ってくれてありがとう。みんなに会えなくなるのは寂しいし辛いけど、」

 深く頭を下げた。
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