麻布十番の妖遊戯
「あんたも古い男だねえ。その時代時代で変化しなきゃ取り残されるってもんだよ。雪女だって寒けりゃこたつにも入るわさ。それともなにか、あんたあたしに溶けてなくなれって言ってんのかい?」

「そんなこと昭子さんに向かって言うわけねえじゃねえか」

 侍は顔の前で手を大きく左右に振って「まさかありえねえだろそんなこと」と一生懸命否定する。
 昭子は、自慢のお垂髪を雪のように真っ白く細い手ですすすと撫でた。

「太郎だって犯罪をたくさんしてきた人間の死体を盗んで食らう火車だろう。それが最近じゃ霊まで食らい始めてるし、見てみろ、今じゃ金髪の遊び人みたいな体になってんだ。あんたもそろそろ自分を変えた方がいいんじゃないかい? そのままだったらその内化石になって崩れさるわ。それから誰も知らないうちにちっさい塵になってどこぞに飛ばされて終わりさ」

 饒舌な昭子を言い負かす腕は侍にはない。
 どうするかというと、口を尖らせて黙るのが適切だと心得ている。

「久しぶりに美味かったですよ」

 金属が擦れるような音の笑い声を上げた太郎は心なしか肌がつやつやしていた。

 たまこと瑞香は司を何回も何回も何回もいたぶり殺し、太郎はその度に何度も何度も何度も食らいついたと聞いた侍は、生前、悪事はしたけれど、人を殺めなくて本当によかったと心の底から思った。

 たまこと瑞香は時が来たら死神によって上へ連れて行かれる。
 そしてそのあと司は死神たちによって、未来永劫、暗闇の中で殺され続けるということだ。

「しばらく帰ってこないと思ったら、食いまくってたのかい? 悪事に手を染めた奴ってえのはそんなに旨いのかい? 不思議だねえ」
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