麻布十番の妖遊戯
 ここへ来た理由か。ええと、確か私はある男の後を毎日毎日寝ても覚めてもずっとつけていた。

 でもなんでそうしたんだろう。ええと、たしか……
 
 ああ、そうだ。私はあの男に凄まじい殺意を持っていたんだ。悔しくて悔しくて仕方なかった。

 そうだ、私は殺されたんだ。あの男に殺された。でも、どうやって殺されたんだっけ。

 ええと、殺されてからというもの、どうしていいかわからずにただひたすらずうっとあいつの背後に張り付いていた。

 それがある時、なぜだかできなくなって、なんでだっけ。ええと。

 ああ、そうだ、あいつの体から眩い光が噴き出したんだ。その光に当てられて私は、

「そうか、私は彼に祓われたんだ」

 独り言ちる。膝の上で手を組んだ。
 ぎゅっと力を入れこめて唇を噛んだ。
 瞬きが早くなる。

「やられたんだ」

 組んだ手に力が入る。

「そうと決まっちゃあいないってもんですよ」

 素早く太郎が言葉をはさむ。
< 20 / 190 >

この作品をシェア

pagetop