麻布十番の妖遊戯
 昔は妖怪も住みやすかったが今ではほれ、見てみろ。

 周り近所は高層ビルとかいうやつで固められて木ぃが一本もなくなっちまった。

 でっけえ墓石がそこかしこに立ってるみたいで気色がわりい。

 今じゃ妖怪を怖がるものなんかいなくなっちまった。
 怖がるどころか反対に妖怪の存在すら信じなくなっちまっただろう。おもしれえ世の中だ。

 見えるもんしか信じなくなるなんてな、まったくバカばっかりだ。

 でもだ、この世は俺らの方が先に生きている。そして永遠に生きる。

 暇つぶしにこうやって夜な夜な影にまみれて人の世に現れて生活をしているとな、普通が飽きてくるわけよ。

 時代が変わっても人なんざなんら変わらねえ。つまらねえもんさ。

 そこでだ、思いついたことがあんだよ。人がダメなら霊を相手にしてみようってな。

「まあ、この話を持ってきたのは侍さんだけどな」

 太郎は唇をにいっと横に長く伸ばした。
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