麻布十番の妖遊戯
 戸を引いて家の中に入ってみるとすぐに小上がりになっていて、履物を脱いで部屋の中へと上がるシステムになっていた。

 部屋の中は狭くて薄暗い。
 真ん中には不自然に大きなこたつが一つだけ置かれていてあとは何もない。
 こたつ布団には猫の柄が描かれていた。その奥が台所となっていた。

 太郎はその台所にいて、侍の飲み物を入れるグラスを用意していた。

 侍は慣れた様子でこたつに入り込み、こたつ布団を肩まで引っ張った。
 太郎はそんな様子を見て左の唇だけ上げて鼻でふんと一つ笑う。
 小馬鹿にしているように見えるその笑いは彼の癖であった。
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