麻布十番の妖遊戯



「悪夢ってのはあれかい、男が豹変したっていうありきたりなやつかい?」

 瑞香が重いため息をつき一呼吸置いて話を区切ったところで入ってきたのは太郎だ。

 一緒になった途端に豹変するのは今も昔も変わらないなあと昭子に同意を求めると、

 昭子もまた、そりゃ男と女だもん、時代が変わったとて大して変わりゃしないだろうさ、特に人間なんてものはさあ。

 などと鼻で笑った昭子に瑞香の眉が困ったように下がる。

「一緒に住んでから悪夢が始まったのよねえ。そうね、こんなのはどうかしら。その男は実はすごく弱虫で事あるごとに女みたいに泣きわめいたとか」

「ああなるほど。女みたいな男ってえのは最初はそれを見せないようにうまく化けるっていいますからねえ」

「おや、そりゃあんたのことかい? 太郎、あんたはうまあく化けてるわよねえ」

「いやいや、俺は女々しくないですよ。昭子さんこそ立派な男じゃないですか」

 昭子と太郎の掛け合いを止めるように、

「お前ら話の腰を折るなよ。話はこれからじゃねえか。その男が殺したんだろう、そりゃどんな豹変ぶりをしたのか聞きてえじゃねえか。さ、続きを話してくんな」

 右隣からいきなり聞こえた声にびくりと身体が跳ねた。

 瑞香は昭子から声の主の方へ身体を向ける。
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