麻布十番の妖遊戯
 唾を飛ばしながら「俺が行けって言ったら行けばいいんだ。なんで一緒に来ないんだ」と怒鳴りとばされた。

 面食らった瑞香は、その意味不明の怒りを鎮めるためにまずは着いていくことにした。

 激昂する人の対応は不動産屋の仕事で身につけていた。

 それからというもの、日に日に司から笑顔が消え、代わりに不気味な笑みを浮かべ、ぶつぶつと独り言を言うようになっていった。

 瑞香が心配し、気晴らしにどこかへ行こうと言っても、首を横に振るのみであった。

 酒を買ってきて一緒に飲もうと言っても、手で押し退けられた。

 そんな瑞香のことを疎ましく思ったのか、家の中から出るなと言われ、外出を禁止されるまでに至ったのだ。
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