麻布十番の妖遊戯
 そんな理不尽なことには納得できないと言い返したが、最近この付近に変質者が出る。女性が連れ去られるという噂があるから君には落ち着くまで家の中に居てほしい。

 と言葉たくみに誤魔化されてしまった。そんなことが数ヶ月続いた。

「ねえ、そろそろ外に遊びに行こうよ。けっこう時間も経ったし、変なニュースも無くなった頃でしょう。外も涼しくなってきたしさ」

 瑞香はずっと家にこもりっぱなしで外に一歩も出れていない。出られてもすぐそこ、庭までで、外はおろか畑にすら行けない状態だった。

 窓から外を見ているだけの一日にほとほと嫌気がさしていた。

 しかし、瑞香は持ち前の明るさと前向きさ、ポジティブさでいい方に考えて自分なりにこの状況を乗り切っていた。

 彼女は、ここで折れたり、言いなりになったら司が余計につけあがることをわかっていたし、そもそもがまだ愛していたのだ。
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