麻布十番の妖遊戯
 しかし、瑞香は持ち前の明るさと前向きさ、ポジティブさでいい方に考えて自分なりにこの状況を乗り切っていた。

 彼女は、ここで折れたり、言いなりになったら司が余計につけあがることをわかっていたし、そもそもがまだ愛していたのだ。

「畑にももう二週間くらい行ってないよ。育ててる野菜たちも心配だし、どうなってるのか見に行きたい」

 台所で野菜を切っている司に軽く言った。前みたいに激昂されるのも嫌だ。

 それに、ここへ来たときに瑞香は司から小さい畑をひとつ貰ったのだ。

 そこに生まれて初めて野菜を植えて育てて収穫してみたりして楽しんでいた。

 しかしその畑は庭とは反対側に位置しているので行くことは許されなかった。

「君が育てた野菜は元気に育ったよ。ほら、丁度いいタイミング。これ、採ってきたものだから食べてみて」

 朝一番に畑から採ってきたばかりだと言って司は瑞香の前に野菜を並べた。

「朝一番で行ったなら私も連れて行ってくれたらよかったのに」

 畑はすぐそこ、それこそ目と鼻の先だ。
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