麻布十番の妖遊戯
 ちょっとだけだったら。

 玄関までならもんくは言われないよね。だって、外に行くわけじゃないし。

 ゆっくり立ち上がり、玄関から一歩外に出て思い切り深呼吸した。

 庭の片隅に植えてある洋梨の木の葉が緩い風に気持ち良さそうに揺れていた。

 乾いた空気と冷たい風が気持ちよかった。

 庭には、洋梨、バラ、桜、その他、色々な花が植えてあった。

 庭はしっかり手入れをされていて、芝生も緑に揃っている。

 小さめの洋梨を一つもぎって服で拭く。
 かじると瑞々しく甘い果実が口いっぱいに広がった。

 梨をかじりながら庭を歩き、花を見ていると、気持ちもいくらかすっきりしてきた。

 そうやって自分の中に芽生えたマイナスな気持ちをその時その時でうまく捨てないと、ここへ来たのが間違いだった。

 仕事を辞めてまで来るような場所だったのかと自分自身に後悔しそうだったのだ。
< 41 / 190 >

この作品をシェア

pagetop