麻布十番の妖遊戯
 心臓が痛くなった。この中に誰かがいる。そして助けを求めている。

 瑞香は反射的に体が動いていた。家に向かって走った。鍵を探さないと。

 鍵がどこにあるのかわからないけれど、探さなければ開けたくても開けられない。

 南京錠だって太くて頑丈だ。鍵がなければどうにもならなかった。

 咄嗟に閃いたのは合鍵の存在だ。家の中のどこかにあるかもしれない。

 以前勤めていた不動産屋では合鍵はマストだった。合鍵置き場は鍵がかけられてきちんと管理されていた。

 しかし、ここにそんなものがあるかどうかわからない。そもそも合鍵があったとしてどこにおいてあるのか知れないのだ。

 芝と雑草を掻き分けて急いで家の中に戻り、手当たり次第に鍵を探す。引き出しという引き出しを開けても無い。

 家中の棚や鍵が入っていそうなところを探してみたが、どこにも無い。

 司の部屋かもしれない。

 そう思った瑞香は司の書斎の前で足を止めた。
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