麻布十番の妖遊戯
「やっぱり今日もおでんだ。昨日もおでんだったし、一昨日もそう。太郎さんは一つにハマると飽きるまで続けるところがある。おでんも好きだけど他のも食べたい」

 分厚いノートを端に避け、おでんのたまごに箸をぶっさし、たまこが太郎にちくりと嫌味をこぼす。

 こう毎日続くとさすがに飽きる。おでんじゃないものが食べたかったのだ。

「そんなこと言ってもたまこちゃんはいつも全部ペロッと食ってるぜい」

 ふふんと得意げに鼻を鳴らして太郎がたまこの皿を指した。

 欲しいことばはそれじゃない。知らない。
 聞こえないとばかりにたまこは横を向いておでんの皿を腕の中に隠し、太郎に見えないようにしてかっこみ始めた。

 侍も昭子も同様に勢いよくおでんをかっこんでいる。

 たまご、大根、ちくわ、こんぶが各々から出て混ぜ合わさった出汁をよく吸って美味しく育っていた。

 具材は半分を残し、その半分におかわり自由の自家製甘味噌をつけて食べるのが三人の間で流行っていた。

 みんなの食べっぷりに、太郎は満足げに頷いている。

 長い年月をかけて編み出した太郎なりのおでんレシピで作ったおでんはここ最近毎日のように出されている。

 具も、たまご、大根、ちくわ、こんぶのみといったところであった。
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