麻布十番の妖遊戯
「なるほど。それが知りたくてこんなところで待ってたというのか。おかしいものだなあ。おまえはここでいったい何十年待っていたんだ。よし、わかった。そんなに知りたいなら教えてやろう。まだ忘れちゃいない。ようく覚えてる。お前は小屋の中のものに気づかなければまだ生きていられたんだ」

 そうだ、あの小屋の中には人がいた。私はそれを助けようとしただけだ。それなのになんで。

「あの人は、あの小屋の中にいた人はどうしたの」

「これはこれは。まだそんな呑気なことを言ってるのか。君は殺される前にもその女のことを気にかけていた。君にはまったく関係のない女なのに。そこまでお人好しだとは。そんなに言うなら君の知りたいことを全部話してやるよ。まあ待ちなさい。順を追って教えてやるから」

 瑞香を嘲笑い、馬鹿にして続ける。

 忘れ物に気づき家に戻って見ると、お前は何かを探していた。
 何を探しているのか気になって見ていたら、鍵、鍵、小屋の鍵と声に出していたのでようやくあの小屋の鍵を探しているってことがわかった。

 しかし、その鍵はいくら探しても見つからない。

 だって、俺が持っているんだから。
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