麻布十番の妖遊戯
「嘘だろ。何やってんだよ。これはどういうことだよ。なんで俺の中に物を投げ込むんだよ。なあ! それに、なんでそんなもん持ってくるんだよ」

 司はよろよろと立ち上がり、妻の肩を掴むが無論それは不可能で、息子の肩を掴むも同じようにすり抜ける。
 悔しさにイラつき、娘の首に両手を回し締めようと力を込めた。

「それがダメなやつなんだなあ」

 突然聞こえた声にびくりと跳ね、急いで娘の首から手を離す。

「遅い遅い。今更手を離してももう遅いのよ。もう見ちゃったし」

 太郎に続き、昭子も顔の前で手を振り、司をこ馬鹿にして笑う。

「誰なんだよおまえらはさっきから」

 そこで三人のことを思い出し、自分の怒りの矛先を三人に向けなおした。一歩前に歩み寄る。
 三人は新しいおもちゃをもらった猫のように好奇心丸出しの顔をしている。

「状況がわからないのも無理はない」

 太郎がバカにして笑う。
 そんな太郎の態度が気に入らなかったのか、司は汚く罵ると太郎の肩を鷲掴みにした。
 掴めたことに面食らっていると、

「な。俺は触れるだろ」

 にぃっと口を耳まで裂き、慄き逃げようとする司の手を素早く掴んで逃さない。

「おいおいどこ行くんだよ。これからお前の身に起こることを教えてやるから、ここにいろよ。ほら、おまえの家族の方を見てみな」

 くるりと体を回され、家族の方に向けられた。更に息を飲む。

 家族が自分に恨めしい目を向けていたのだ。娘が柩を蹴っ飛ばした。それを咎めるものはいない。
 自分の後ろには得体の知れない三人がいる。

 俺に味方はいないのか。そうだ、瑞香がいる。
 瑞香を探すが、さっきまで立っていたところ、瑞香の頭が埋められているところには何も、誰もいない。
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