麻布十番の妖遊戯
「いいか、よく見てろ。これからお前は大事だと思っていた家族の手によって、燃やされるからな」

 なんでかって? そりゃ家族がお前のことを大嫌いだからだよ。お前がしたことはこの家族はすべてお見通しだった。
 最初にこの畑に埋まっている腕を発見したのは誰だと思う? 

 あそこにいるお前の妻だ。まだお前と結婚して間もない頃だ。でも、彼女は離れなかった。なぜだかわかるか? 
 見たかったんだよ。お前が本当に人を殺したのか、どうやって殺すのか。

 瑞香さんのときと違うのはここだ。
 彼女はお前の本性を暴いたところで自分も殺されるとわかっていた。

 だから機会をうかがっていたんだ。しかしだ、お前のような子を産むのは嫌だ。お前の血は残したくない。
 だから、お前にわからないように他の男のこどもを産んだ。
 その男がお前の妻を守っていたんだよ。陰ながらずっと。

「お前が息子や娘だと思っていた子は、その男のこどもだ」

 何を言われているのか理解できない司は頭を抱え、妻へ目を向けた。ありえない、ありえないとぶつぶつ言っている。
 灯油を自分の入っている柩に並々と注ぐ。こどもらも同じように自分が横たわっている部屋に撒き、司自身の部屋にはくまなく撒き散らす。

「やめろ。やめてくれ。燃やすな。火をつけるな」

 太郎のことばが届いているのかいないのか、司は肩を上下に乱す。

「お前が大事に育てていたのは、赤の他人のこどもだ」

 太郎が司の耳元に囁いた。

 なるほど。そこまではわからなんだ。と手を打った昭子は、侍と頷きあい、ああでもないこうでもないと話に花を咲かせ始めた。

「お前の妻は、畑に埋まっているものを掘り返したんだよ。お前の目を盗んで」

 一人じゃ怖い。でも二人なら?
 その男とは以前からの知り合いだった。

 ん? どんな知り合いかって? まあ待てよ。あとで教えるからそんなに焦るな。
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