麻布十番の妖遊戯
「そんなずばっと言っちゃあ、身も蓋もねえってもんだわな」

 侍が目尻に烏の足跡をこしらえて残りのメロンソーダを飲み干した。
 着物の襟を首元まで上げてわざとらしく傷を隠す。

「そうよねえ、メロンソーダが好きな落ち武者なんて聞いたことないよねえ」

 昭子が日本酒をくいっとやって侍にしてやったり顔を向ける。

「おい、昭子さん、聞き捨てならねえな、俺は落ち武者じゃねえぞ。それに言っとくがな、侍でもねえからな。俺は単なる放蕩息子だ。そこらへんの輩と一緒にしてもらっちゃあ困る」

「放蕩息子だって胸を張って言えることじゃないと思いますよ、侍さん」

 太郎がやんわりと正論を述べる。そんな太郎の言葉に侍は背を向けて聞こえないふりをした。
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