麻布十番の妖遊戯
「待て待て待て、俺のことを便所紙みてえに素っ気なく扱うなよ。それになんだそのノートに書いた俺のことは。たった一行で雑に終わらせてんじゃねえか。俺だってメロンソーダ欲しさに留まってるわけじゃねえぞ。聞いてびっくりするもっとすげえ歴史があんのよ。そこんとこは勘違いしないでもらいてえな。メロンソーダんとこ消せよ」

「まあ、そんなに鼻息あげずにさ、いいからここはあたしにしゃべらせなよ。それにあんたにそんな歴史があるとは到底思えないねえ。たまこちゃんはあたしに聞いてんだから。ねえ」

 侍が食ってかかったのを昭子は軽くいなし、侍の肩を軽めに二回叩く。
 口を尖らせた侍は音を立てて残りのメロンソーダをストローで一気に啜った。

「一つ聞いてもいいかい? たまこちゃんはあたしらを一体なんだと思ってるんだい? あたしのことをなんとなく知ってるそぶりをしたけど、なんだと思う?」

 昭子が興味津々に、試すようにわざとらしく困った顔を見せてたまこと向かい合う。

「昭子さんは幽霊。しかも地縛霊」

 たまこは考える間もなく即答し、大きく頷き、目をキラキラさせた。

「なるほど」

 昭子が顔色一つ変えず、体を前に倒してたまこに近づき、たまこの目の奥を覗き込む。

「ああ、驚いた。こいつは本当にそう思ってるみたいだよ」

 たまこから体を離し、太郎と侍に目を合わせ、可笑しそうに笑みを浮かべた。
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