麻布十番の妖遊戯
「へえ、そうかい。これだからこどもは面白い。たまちゃんは自分が地縛霊だと思ってるのかい。だったら、地縛霊の俺はなんでこんな風に蝋燭を置いたりするんだろうな」

 にたにた笑いの太郎がたまこの座っている席の左隣に蝋燭を静かに置く。
 その顔は小さなねずみを見つけたときの猫の目のように好奇心にぎらついていた。

 すかさず、侍と昭子が太郎に、それはまだだろう、何考えてんだい、あたしがまだ話してんだよ。早くひっこめな。とか、たまこはまだ気づいちゃいない。俺らを地縛霊だと思ってるなんてこんな面白えことが他にあるかい。これはもうしばらく飽きずに遊べるじゃねえか。話を聞いてみようじゃねえか。もうちょっと待てよ。とよくわからないことを言っていた。

 たまこは交差させて組んだ指を忙しなく動かしつつ三人の顔に順に目を向ける。

「昭子さんも侍さんもそんなムキにならんでくださいよ。まだ消しゃあしませんよ。ちょっとした準備だけってもんで。さ、どうぞ。心置き無くしゃべってください」

 昭子と侍の突っかかりっぷりに少々ひるんだ太郎は手の平を上にして昭子に滑らかに滑らせた。

「なんだい太郎、いつもは準備なんてしないのに何言ってんだか」

「いやいや昭子さん、よかったじゃないですか準備だけで」

「いいかいたまちゃん、たまちゃんがなんであたしらを地縛霊だと思ったかはわかった。じゃあ、百歩譲ってあたしらが地縛霊だったとしよう、」

「幽霊じゃねえだろ」

「うるさいね。百歩譲ったって言ったろ。それに幽霊じゃなくて地縛霊だよ。あんたとは違うんだよまったく」

 侍の横入りを昭子が一蹴する。
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