麻布十番の妖遊戯
 もんくを言いながら唇を尖らせ目を細めてそっぽを向いた侍を無視し、

「あたしが地縛霊だったら、なんでここにいると思うんだい?」

 うーんと唸ってしばらく考え込んだたまこは、「たぶん、何かが起こって、その未練か執念か、怨霊が残っているからここにいるんだと思います」と言った声はやや自信無さげだった。

「じゃあ、その未練とやらの大元はなんだと思うんだい?」

「たぶん、誰かに殺されたか自殺したかしか思いつかないんですけど。あ、もしかしたら事故とか。自分でも気づかないうちに死んじゃったとか。それで、まだ死にたくなかったって気持ちが残ってるとか」

 うんうん頷いている昭子を見て、自分が言ったことが当たっているのかと目をキラキラさせたたまこは、

「その犯人を見つけるためにここに残ってる」

 これだ。と自信満々に鼻の穴を広げた。

「へえ、これは驚いた。あたしのことをそんな風に思ってるのかい」

 視線はたまこにつけたまま、顔だけを太郎と侍に向けた昭子は、右手の小指、薬指、中指、人差し指の順にこたつテーブルを繰り返し叩いた。

 三人の目が自分をまっすぐに捉えていることに少々戸惑い、肩を縮こませ、ノートをそろりと引き寄せて胸の前で抱えた。
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