麻布十番の妖遊戯
 ふうっとため息をついた猫夜は耳を下げ、目尻も下げ、尻尾もだらんと下げ、何か思いつめるように物思いに静まり、大きなお目目をパチリパチリと二回瞬いた。

 昭子が眉を下げて下唇を噛む。両の手をグーパーしながら触りたい気持ちを耐えてもじもじする。

 犬飼が心配そうに猫夜を覗き込む。

 犬飼の濡れた鼻が自分の近くに寄ってきたのを嗅ぎわけると、ちっと舌打ちをして小さな手で犬飼の顔を押し返して遠ざけた。話を続ける。
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