失翼の天使―wing lost the angel―
L型に建つマンションの中心にあるエントランスに入り、オートロックを解錠して中へと入る。

2台あるエレベーターの先に来た方に乗り込んで、7階の我が家へ。



「静かに通って下さいね?喋らないで下さいね!;;」



「ん?うん」



エレベーター内で念を押し、足音にすら注意をしながら東棟の角部屋の自宅へと一目散。



「お、帰ったか?」



「……ただいま帰りました;;」



…バーレーたー!;;



「こちらは?誰だ?」



「祖父の、小松恵蔵-コマツケイゾウ-です;;講演会の為に只今、いい歳しながら単身赴任でこっちに来てまして;;」


「あぁ!医学会の元会長の?」



「はい;;お祖父ちゃん……こちら、お付き合いしてる、鷺沼賴真さんです;;」



「おぉ!お前たちの務めてる病院のか?」



「うん;;」



「そうか。おやすみ」



「「おやすみなさい;;」」



御年87歳でも、スラリと伸びる背筋。

衰えを感じさせない1人暮らしも慣れた様子の祖父ながら、マイペースで、話が済めば、ひょっこりと出した顔を引っ込めて、ドアを閉めた。

私が帰って来るとご丁寧に顔を見せる祖父。

…静かにしたつもりなのに……;;

なかなか侮れない人だ;;
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