失翼の天使―wing lost the angel―
「腕や足、痛くないですか?」



手足に触れながら、スラックスの上から脛へと針を刺した。

細い針だし、痛みに強い人なら耐えられるような注射針だけど、プスッと勢い良く刺した。

チクッと小さな痛みが走る筈だけれど、全く反応はなかった。



「ちょっと、抓みますよ?」



「先生。もっと力を入れないと、年寄りは鈍いですよ」



強めに握った右腕。

私はデスクチェアーに座り、コソッ針をゴミ箱へ捨ててカルテに症状を入力して行く。



「失礼します。どんな感じ?」



「……これ何ですけど」



友田君が連れて来たのは鷺沼先生。

兄は処置が終わってるとするなら、研修医2人と診断についての話をしてるかも知れない。

私の肩に手を掛け、カルテを見た鷺沼先生。



「すみません。ちょっと触りますね」



「どうぞどうぞ」



「頭のお写真を撮りましょう!娘さんがせっかく連れて来てくれたんですから、ちゃんと検査しておきましょう」



鷺沼先生が上手くヒムカイさんを納得させ、CT検査へと向かわせた。



「すみません。脳外はほとんど経験がなくて」



「それは俺もだから。けど、年齢的に難しいかも知れないな」



「……えぇ」



きっとヒムカイさんは頭を打ってる。

血腫があったとすれば、手術はしない方が良いだろう。
< 12 / 219 >

この作品をシェア

pagetop