失翼の天使―wing lost the angel―
呼ばれたところに行くと、搬送待ちの1人の女性が確かに嘔吐していた。

一見は軽症。

触診しながら隣に居た旦那さんらしき男性の話を聞いてると、対面衝突の後ろに乗ってたらしい。

瞳孔を見ると左右差があり、頭部を負傷してると確信。



「……あ、」



脳外認定医の兄に指示を仰げば早いと思ったけど、今は無理だ。

麻酔から覚めてるかわからない。



「……救命の長崎です。鷺沼先生はいらっしゃいますか?」



『俺ですけど。……賴真の彼女?』



「ちょっとお訊ねしたいんですけど」



当直だとは知らなかったけど、有難い事に居てくれた。

何故か賴真との関係がバレてるようだけど、そこはスルーして、患者さんの容態を伝え、指示を仰いだ。



『脳圧を下げれば瞳孔の左右差は小さくなり、搬送に問題はないだろう。開頭セットあるか?』



「はい。入ってます」



『よし。とりあえず頭蓋内に溜まった血を抜けば良い。搬送の用意もしてくれ』



「大丈夫です」



指示を受けながら開頭し、手動のドリルで頭蓋骨に穴を空けて行く。

打った場所がはっきりとわからず、二度のトライで何とか血溜まりを発見。

シリンジにチューブを装着し、簡易的な吸引器で取り除きながら搬送。
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